お侍様 小劇場
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   “秋の催しといえば…” 〜寵猫抄より


気候がいいからか、それとも。
概ね収穫の時期なので、豊饒を祝ったり、
そんな恵みを神様に感謝して、
祈りや舞いなど奉納したりといった習いがあったからか。
秋は神事関係の行事が多い。

 「まあ、祭りというと、
  四季のどの時期にも何かしらあるものだが。」

 「そうですね。
  あと東北の方では夏が短いせいですか、
  夏に大きいのが続きますよね。」

米処というイメージが強いが、それだけじゃなく、
夏にはサクランボに桃、秋になればリンゴといった果実も実る。
信濃では葡萄やソバですかねなんて、
土地の特産品へと話が逸れた七郎次のお膝では、

 「みゃう?」

自分もお話に加わるのと言いたいか、
今が見頃なモミジを思わす、それは小さなお手々を広げ。
熱弁振るう様よろしく、
お膝に掛けられたコタツ布団を、
ぱふりぱふりと小さな力で叩いておいで。
幼子のそんな熱の入った態度を見、
おやおやと目を見張った島田せんせえ。

 「如何した、そのように興奮して。」

よしよしとすぐの真横から、
ふかふかの金の綿毛を大きな手でくるむと、
ぱふぱふと撫でてやる勘兵衛で。
小さな坊や、どちらの大人のお膝に座っても
お顔が天板の下へ隠れてしまうので…というのは後づけの理由。
此処でお食事…という場合を除くと、
大人が二人、二人しかいないのに、
一つ角を挟む格好で、隣り合って座っている、
今日このごろの島田さんチだったりし。
それでなくとも、

  差し向かいというのは何だか、
  微妙な距離がなくはないかしら、と
  思っておいでだったらしい、島田せんせえで。

コタツのような小さめの卓でさえ、
間に挟まっているのが何故だかもどかしい。
夏場、ソファーセットで過ごしていたよりも、
お互い、ずんと近づいているはずだのに。
その“ずんと近づいた”ことが、
今更の含羞みを招くのか。
敏腕秘書殿、何かの拍子に目が合ったりすると、
その青玻璃の双眸を瞬かせ、
さりげなくながら…そそくさと、
視線を逸らしてしまうものだから。
ならば、その身を寄せよじゃないかと。
そうなりゃあからさまに逃げ出す訳にも行くまいなんて、
微妙に意地の悪いこと、目論むあたり。

  まだまだお若いです、壮年殿。
(笑)

  そして、それはさておいて。

小さなお手々での蹂躙くらいじゃあ、
埃ひとつ立たないとはいえ。
こたつ布団を叩くほどというのは、
なかなか激しい自己主張。
癇癪を起こすなんて、これまでにもなかったことだし、
何かあったのか、何か訴えたいのかと。
なかなかの弾けっぷりを披露した仔猫様を、
深色の双眸が座る目許細めて、
勘兵衛がよしよしと宥めておれば。

 「先程買い物に行った帰りに、
  少し遠回りをして神社へ寄ったのですよ。」

七郎次が坊やに代わって、
そういえば途中から大きく逸れていたお話を戻しがてらに、
そこで見て来たことの説明をする。
いいお日和だったので、もうちょっとお外を歩こうかと。
街路樹から降り落ちる木の葉が、
風に攫われるのを追っかけ追っかけ、
そうやって辿り着いたのが、
町並みから外れかかったところにあった、
小さいながらもちゃんと鳥居のある可愛らしい神社。

 「そういう時期だからでしょうね。
  平日でしたが、晴れ着を着た小さい子たちが、
  親御さんとお参りに来ておりまして。」

 「みゃあ!」

ねえとお膝の仔猫様とお顔を見合わせる七郎次だったのへ、

 「そうか、七五三か。」

そういえばそういう時期だのと、
そこは勘兵衛にもすぐさま通じて。

 「みゃ、にゃうみぃvv」

それにつけても、
随分と嬉しそうにしている久蔵だったのは、

 「こんな可愛い子ちゃんですもの、
  お子様たちも放っては おきませんて♪」

わあネコだ、かあいいvvと、
綺麗なおべべの和子らに取り囲まれ。
ついでに、お綺麗な金髪碧眼の秘書殿も、
お子様たちのお母様がたに取り囲まれて。
メインクーンですわね、なんて愛らしいことと、
こちら様にもお愛想は振られたらしいが、
ままそれは、島田せんせえを徒に刺激し、
大人げなくも怒らせるだけなので割愛するとして。
(おいおい)
小さい子らに囲まれる機会の多い可愛い子ちゃんは、
慣れて来たのか怯えることもなく、
はたまた、興奮して爪を出すこともなく。
甘いお声で にゃあにゃと鳴いては、
七郎次から見れば 輝かんばかりの笑みを振り撒き、
可愛い可愛いとの人気を博して来たという。
決して“演技”じゃあないのだけれど、それだけに

  ……どっかの黒猫様が見たら、
    愛想のよさに絶句したかもだけれども。
(笑)

小さい子供たちとの触れ合いの場は、それほど楽しかったのか。
しきりと楽しそうにしている久蔵だったが、

 「皆さん、それは綺麗な晴れ着を着てましたんで、
  錦の刺繍やらスパングルの縫い取りへ、
  久蔵の方からも興味津々になっちゃいまして。」

 「成程の。」

そこはやっぱり猫だから、光りものには弱いものかなと。
綺麗への感覚の差を感じてしまった勘兵衛だった傍らで、

 「久蔵も年頃は同じくらいなんだよなって思いましてね。」
 「…おいおい。」

どうやら女房殿の、いやさ、
おっ母様の想いは別なところにあったようで。
ふわふかな金の綿毛に、真っ赤なお眸々もぱっちりの、
愛くるしい面差しをした、色白美人な自慢の我が子。

 「ええ。
  犬猫にフォーマルや羽織を着せる図は、
  私も以前なら“どうかなぁ”と思っておりましたが。」

でもでも、私たちには 人の和子に見える坊やですもの。
晴れ着はまま置いとくとしても、
健やかにあれとご祈祷いただいておきたいなとか、
可愛らしいお子様たちを見ていて、

 「ついつい思ってしまいました。///////」

含羞むように“親ばかですよね”なんて言う、
その言いようからして、どれほどこの子に入れ込んでおいでやら。
柔らかく口許ほころばせる恋女房の、
甘くて暖かなお顔に見とれつつ、

 「そうさの。ご祈祷くらいは受けさせてやってもいいかもな。」
 「…勘兵衛様?」

はい?と。
自分から言い出しといて、キョトンとする七郎次だったのへ。
そのお膝にて御機嫌なままでいる仔猫様の小さな手と握手をしつつ、

 「こういう言い方は怒るかも知れぬが、
  家族扱いの延長として、
  ペットへの厄除け祈祷を施すお人も少なくはないらしい。」

まずは氏子としてのご挨拶、
お祓いだけなら、どこの神社でもやってもくれようさと続けた勘兵衛で。

 「えっと…。///////」

呆れられるか笑われるか、すると思ったのにね。
そしたら、そうですよねぇなんて、
こっちもおどけて諦められたのに…まったくもう。

 「だがな、玉串やら祈祷の鈴やら振り回されたなら、
  さすがに大人しゅうしてはおれない こやつかも知れぬぞ?」

 「あ、そうですねぇ。」

神主が振る、白い弊のひらひらと下がった、あれは何というのだったか。
あんなの目の前で振られたら、絶対手が出てますよねと。
それは可笑しそうに七郎次が笑い、
ふにゃ?と小首を傾げる久蔵の、ふわふわの頬っぺをつんつんとつつく。
微妙に風変わりな我が子、
でもでも世界一可愛いと、その点は疑わぬ、いやさ譲れないとする、
十分“親ばか”な二人から、二人掛かりで愛でられて。

  「にゃう?」

かっくりこと小首を傾げた、
愛らしさ、稚(いとけな)さも格別の。
小さな皇子に白い手と大きな手とが延べられて。
いい子いい子とあやして差し上げる図の、何と温かなことだろか。
晩秋からそろそろ訪のう冬の気配も何のその。
ほこほこ寄り添い合う彼らへと、
暖かな陽のたっぷり差し込むリビングを、
プリムラの小さな鉢たちが、羨ましそうに覗いておりました。




   〜Fine〜  2010.11.14.


  *そういや仔猫の久蔵ちゃんは、
   七五三に該当するお年頃だったなぁと思いましてね。
   でもでも、いくら甘党の彼だとて、
   千歳飴はさすがに苦手なんじゃあなかろうか。

   「そもそも、猫の口で飴を舐めるというのは無理があろう。」
   「水はエレガントに飲むそうですが。」

   ほんのこないだ、アメリカで、
   ハイスピードカメラ使って研究した人がいたそうですよ?

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